古い建築物などが好きで方々訪ね歩くのですが、21世紀を迎え味わいのある風景はますます失われていく傾向にあるようです。かつての、実際には見たこともない東京の風景の写真集などを眺め、ああ、行ってみたいなあ、と溜息をついてばかりいても仕方がないので、模型で再現してみました。 昭和初期の賑わう銀座のジオラマです。関東大震災で崩壊したレンガの街の後に新しい建築が建ち並びようやく復興しだした時代です。前面だけ擬似西洋風に飾った看板建築様式の建物が現れたのも この頃です。フランスで流行っていた、新風俗であるカッフェーなどもいち早く銀座にオープンし、新し物好きの文化人達の社交場になっていました。ジャズの音が流れてくる、カッフェールモンドの前を歩いている、いつもコウモリ傘がトレードマークの文豪永井荷風に店の女給が声をかけます。東京の風俗の研究に熱心な先生は誘われるまま店に入っていってしまいました。ダブルポールが特徴のクラシカルな車体の路面電車が、往来を走り抜けて行きます。追いかけてくる編集者から逃れようと電車に飛び乗ろうとしているのは、人気探偵小説作家の江戸川乱歩です。パノラマ島奇談を書き上げた後スランプになってしまい、無理やり書かせようとする出版社から逃げ回っていたのもこの頃です。写真館の前では、紳士がウィンドウの美人のポオトレイトに魅入っています。まだカメラが一般の人には高値の花だった頃、写真を撮ることが出来たのは街の写真館しかなく、今よりもっと重要だったのでしょう。